スポーツ選手の視野
スポーツ競技によっては、視力や視機能には関係なく技術の向上もあります。
「百聞は一見にしかず」と言われるぐらい、情報の受け渡しは耳(聴覚)よりも眼(視覚)のほうが格段に多いと思われます。つまり、スポーツに限らず人間の生活の情報は眼から始まって、脳や体に伝達されている訳です。
たとえば、目線とはまったく違う方向にすばやいパスを出すバスケットボール選手のプレーには、よくあそこまで見えているものと、ただただ感心するばかりである。「あの選手は周囲がよく見えている」とか「あいつは後ろに眼がついているようだ」という表現は、すぐれた選手は視野が広いことを経験的にいったものである。
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メガネのアマガンセンター店は、西は神戸市/芦屋市/西宮市と東は大阪市、北は伊丹市/川西市/宝塚市/三田市の間に位置する尼崎市で、1956年に眼鏡専門店として開業いたしました。当店では、平成17年より度付スポーツメガネの制作にあたり、様々な問題を解決するために、度数補正システムを初め、ハイカーブフレームに度数を挿入いただいた体験コーナー、ハイカーブレンズ加工機を設置しております。
スポーツは眼からはじまる
■広い視野の役割
スポーツとは少し離れるが、ここで視野の役割とは何かを考えてみよう。
視力がよく、色の識別にすぐれているのは網膜中心窩であることはすでに述べた。中心窩はきわめて小さく、視野の大きさでいえば5m離れた距離にある切手に相当する大きさが中心窩視であるといわれる。中心窩を離れるにしたがって、視力や色彩感覚が急激に低下する。
このことは次のような簡単な実験からもわかる。まず、人差し指を立てて腕を伸ばし、指先を見る。指さしている先のものはよく見えている。次に、視線はそのままにして指をゆっくり外側に動かす。指1本が視覚で約1°に相当する。視線から5本分(約5°)離れたところにあるものの形、色の識別ができるだろうか。5°離れただけで、形や色の感覚が急激にわるくなっているのに気がつくと思う。さらに周辺では急激に低下し、最周辺ではもはや指の存在もわからないほどその感覚は劣っている。
このように視野のなかで中心視のみがすぐれた機能をもつという、極端に中心視に重点がおかれているのが私たちの視覚である。では、この中心視以外の広い視野は何の役にも立っていないのであろうか。
視野の周辺部は視力が低く、細かいものをはっきり見たり、色を識別することは劣っているが、動くものや点滅する光のように、時間的に変化するものを感覚することは、中心部に比べてそれほど劣っておらず、むしろすぐれた機能を発揮することもある。たとえば、視野の片隅で古くなった蛍光灯がチラチラしているのを感じたとき、そこに眼を移す(中心視)とチラチラを感じないことがある。ふたたび、視線をそらして周辺のほうで見るとチラチラしているのが感じられるというのは、周辺のほうがこのような感覚にすぐれている例である。
また、テレビやパソコンの画面を中心視してもチラチラは感じられないが、ちょっと視線をずらして視野の片隅で見るとわかるのも同じである。このような感覚は桿体機能と関係があると考えられており、細胞密度が高い20°付近で最も強いという。
ものの動きが知覚できるためには、運動の速度が速すぎても、また、運動の距離が短すぎても知覚できない。運動速度と距離がある範囲以内にあることが必要である。福田によれば、視野の中心部は微小(低速、短距離)な運動に対して感度が高く、周辺部は高速運動の近くにおいてすぐれた機能を発揮していて、微小運動に対しては中心視、高速運動に対しては周辺視というように機能を分担しているという。
つまり、視野の周辺は、物の形がどのようであり、何であるかを検出するよりも、視野のなかで「何か動いた」という感覚を起こさせること優先しているものと考えられる。動きを検出するレーダーとしての役割が基本的な働きである。
周辺視で動くものを検出し、その情報によってそれが何であるか細を識別するのは中心視という機能分担しており、両者をつなぐものが眼球運動である。周辺部の刺激が手がかりとなって眼球う運動が起こされるが、この反射はきわめて正確、迅速になされる。最近では、視野の周辺部は、たんに対象を見つけ出すことに役立っているだけでなく、広い範囲を中心視と同時に見ていることは明らかにされている。こに研究 いは眼球の動きを光学的に検出して、結果的に周辺視ができないようにして図形を観察する装置が使われている。
この方法による観察例が(図10)である。この被験者は、図の右下の大きさに視野を制限され、中心視だけで「やっとこ」の図を観察した。右がその視線移動の軌跡である。軌跡がそのまま「やっとこ」の図になるほど被験者は図の隅から隅まで観察した。観察時間は62秒であったという。被験者にはこれが「やっとこ」であることがわからず、アルファベットの「f」と答えたという。この結果は、中心視だけではものの形は識別できず、中心視しながらも同時に周辺視からの情報も統合して識別していることを示している。
では、私たちはいったいどのくらいの範囲を同時に周辺視で見ているのであろうか。たとえば文章を読むさい、文字を1字ずつ読んでいるのいか、あるいは、いくつかに文字をまとめて読んでいるのか、もし、まとめて読んでいるとすればそれは何文字であろうか。
一度にまとめて処理される文字の数をPerceptual Spanとよんでいるが、英文の場合には、注視した文字の10文字までは目を動かさなくても読んでおり、15文字までは英語の長さといったおおまかな情報が取り入れられ利用されているという。日本語のSpanは図11のようであるという。この範囲はかなり広く、10文字程度をまとめて処理しており、視野の広さでは約10°ぐらいの範囲に相当するという。
■スポーツにおける視野の役割
[1]周辺視野とバランス
このように、図形や文字の認知では視野は重要な役割があるが、では、スポーツにおいてはどのような働きをしているのであろうか。
スポーツは視野に入るものはボールや選手、あるいは、用具、施設というようにあらかじめ何であるかがわかっている場合が多く、しかも範囲はほぼ視野全体に広がっているので、図形や文字の認知のさいの視野の役割とは違っているかもしれない。
これまでのところ、スポーツにおける視野の役割として系統的に研究されたものはないが、身体の平衡性や、距離の見積もりというスポーツにとって基本的なことと関係があるんことは知られている。
身体の平衡性は内耳機能、筋感覚からのフィードバック、および視覚の三者によって保たれているが、このうち視覚からは主として周辺視からの情報を利用しているという。小さな穴をあけたボール紙で眼を覆って片足立ちをしてみると、うまくバランスがとれない。これはバランスに必要な周辺から入る情報が遮断されたためである。
バランスの保持のいおける視覚の役割は、身体が動揺することによる視野内の物体の相対的な運動を知覚し、得られた情報を姿勢調節にフィードバック、あるいはフィードフォーワードすることにある。そのため、運動の知覚とか、相対的な位置感覚にそのおもな働きがある周辺視野からの情報が姿勢制御に与える影響が大きいという。
実際に視野制御メガネで視野を制限して、バランスがどのようになるかを調べてみると、制限された視野の面積が大きくなるにしたがってバランスもわるくなり、とくに、網膜捍体細胞の密度が高い視野の部分が制限された場合に動揺が大きい。これは、微分回路的な処理機能をもつ網膜杆体機能からの情報がなくなるためではないかと考えられる。
[2]周辺視野を遮蔽する
指で輪をつくって眼にあて、それを通して見ると、見ているものまでの距離は遠くに感じられる。視野は距離の見積もり」にも関係しているわけである。スミスらは。視野制限をしない場合と、三種類の視野に制限した条件を設定して、距離の知覚にどのように影響するかを、3~8mという距離から的にソフトボールを投げるという方法で調べている。その結果は、視野を制限すると、制限しない場合よりボール投げが困難になり、的までの距離を遠くに感じる影響が出るという。広い視野があってはじめて正確な距離感覚が可能であることがわかる。
視野が制限されるとスポーツのパフォーマンスにはどのような影響が出るのであろうか。これを知るために、クレストフニコフらは、投てき競技、スキー、スケート、体操で、周辺視野を遮断して周辺からの視覚情報を利用できないようにしたときの影響を調べている。
スポーツによってその影響はさまざまなようである。投てき競技では、方向の乱れと距離が短くなること、スキーでは、転倒、旗門不通過などが起き、スケートでは定められたフィギュアのレースが困難になったという。また、体操ではひねり動作のときのタイミングの乱れなどがあったという。
著者も制限メガネをかけて周辺視を制限したとき、野球の遠投とバスケットボールのフリースローにどのような影響が出るかを調べてみた。図12は、大学野球選手の右投げの外野手14名が、ホームベースに対して85mの位置から5mステップして、本塁にバックホームを想定した遠投をしたときの、ホームベースからの反れ(角度)と、ベースの手前どれくらいに落下したかの結果である。本塁上に旗を立て、方向の目安にしてある。
視野を遮断しない場合が反れが最も少なく、ほぼ2°以内で投げることができた。完全に視覚を遮断(閉眼)してしまうのが最もわるく、約5°の反れである。
周辺視野を遮断して見える範囲を90°、50°……と狭くすると、狭くなるにつれてしだいにボールの反れの度合が大きくなっていく。落下点は、視野のいかんにかかわらず、だいたいホームベースの手前6mぐらいに落下している。つまり、野球の遠投では周辺視野を遮断すると、それに応じて方向性のコントロールが低下するが、距離のコントロールには影響しないという結果である。同じように、バスケットボールのフリースローの成功率も周辺視野が遮蔽されるほど低下している。通常、水平視野は180°ぐらいであるが、見える範囲を35°に制限しても、フリースローの位置からはリングはもちろんのこと、バックボードも完全に視野に入っている。しかし、成功率は低下する。周辺からの情報がカットされると、距離感覚やバランスに微妙に影響するのかもうぃれない。
おそらく、視野はこれ以外にもさまざまな働きをしていると思われる。日ごろ、顧みられることの少ない視野であるが、視覚の裏方として重要な役割を担っているようである。
■有効視野
スポーツでの視野は生理的視野の広さより、池田らのいう有効視野のほうが実効上、意味がありそうでもある。一般に、視野の広さはあらかじめ視標に提示される方向がわかっていて、しかも注視点(中心視)は無負荷の状態で測定される。
これに対し、池田らは視標が周辺視野のどこに提示されるかわからない状態にしておいて、しかも視標を他のものと識別する能力をとりあげている。中心視に非常な注意を払わなければならないような注視負荷をかけると、視野がどのように変るかを調べ、このような場合に知覚の及ぶ範囲を「有効視野」と名づけている。
図13が池田らが用いた負荷刺激の一例である。背景パターンはやや不規則な三角型、ターゲットは★、注視すべき負荷はpqである。
これらが同時に250m secの間、提示される。被験者は中央の視標が何であったかを報告し、かつ★が周辺のどこに出たか、その位置を報告するものである。注視すべき負荷を簡単なものから、たとえば意味が不明な文字のような、強く注意を払わなければならない負荷までいろいろ変えている。得られた結果は複雑であるようだが、
・注視しなければならない負荷が強いほど有効視野は狭くなる。
・有効視野は練習効果がある。
・個人差が大きい。
としている。
同じく、有効視野に関してエンゲルは興味ある実験をおこなっている。中心視をさせながら周辺にターゲットを提示するのは同じであるが、あらかじめターゲットの出る方向を知らせておき、眼球運動を起こさないようにさせて、被験者にその方向に注意を向けるところを特定すれば、そこでの識別能力が高まるわけである。
注視sるる対象によってダイナミックに変化している視野現象は、私たちの身のまわりにも多い。身近ま例は運転中の視野の狭窄である。一般に、速度が上がると視野が狭くなることは知られている。図14のような方法で、ドライバーから30°、60°の位置に発光器を取り付け、運転中にランダムに発光させ、発光に気が付いたらハンドルに取り付けた反応キーを押させる。速度によって見落としがどれぐらいになるかというものである。
速度が上がるにつれて見落とし回数が増加し、視野が狭窄していることがわかる。速度があがるほど前方に注意を払わなければならないから、相対的に周辺の注意がおろそかになり視野の狭窄が起こると考えられる。このように、視野内のある対象注視すると、周辺のものが知覚されないことは、ナイサーのいう選択的注視と関係した現象である。ナイサーらは、二人の人物が「ハンドゲーム」と呼ばれるゲームをしている場面と、三人がボールゲームをしている場面を合成してテレビ画面に映し、観察者には片方のゲームにのみ注意を払うように要求した。ハンドゲームを注視する場合には手を打ったとき、ボールゲームを注視するときにはボールを投げたときに反応キーを押すようにさせたところ、見落とし率は約3%ほどで、それぞれのゲームを単独で観察させたときとほとんど変らない程度に容易にできたという。ナイサーは、これは視覚的に重なり合ったものを取り除くといった特別なフィルターがとくに備わっているからではなく、注意をしている出来事だけが予測・探索・情報抽出のサイクルのなかにくり込まれ、注意を向けていないものはたんに無視する能力が備わっているだけであるとしている。
このような機構が私たちにあることが解明されたわけではないが、注意を払う対象だけが知覚され、注意を向けないものには知覚されない(見えない)とすれば、スポーツにおける視野の広さは選択的注視そのもである。
[最終更新日] 2023年07月16日 /[公開日] 2021年03月06日
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